乗り心地の硬さに驚く
東京・九段にあるトヨタの広報車貸し出し窓口で「GR スープラ」の旗艦グレード「RZ」を借り出す。“GR”が車名の前についた場合は、豊田章男社長肝いりで2017年に設立された社内カンパニー、GAZOO Racing Companyの専用開発車をあらわす。ただし、GRはあくまでマーケティング上の名称で、国交省への届出名ではない、という位置づけがややこしいけれど、GR スープラはモータースポーツ活動とスポーツカーの開発を担うガズーレーシングカンパニーの市販車第1弾と位置づけされる。
【主要諸元(RZ)】全長×全幅×全高:4380×1865×1290mm、ホイールベース2470mm、車両重量1520kg、乗車定員2名、エンジン2997cc直列6気筒DOHCターボ(340ps/5000rpm、500Nm/1600〜4500rpm)、トランスミッション8AT、駆動方式RWD、タイヤサイズ フロント255/35ZR19、リア275/35ZR19、価格702万7778円(OP含まず)。
そのGRスープラの広報車には「マットストームグレーメタリック」という特殊塗装が施されていた。2019年5月に国内販売となったおり、限定たったの24台がネット予約でのみ売り出され、抽選とされたスペシャル・カラーで、あまりに手間がかかるゆえか、現在は受注していない。オプション表によると、ペイント代だけで35万2000円もする。つや消しの、ステルス戦闘機のような塗装だと、筋肉の盛り上がりのようなボディの凹凸がより強調されて、この世のものにあらざる一種、異様なムードを醸し出している。
貸し出しの担当者から、「出るときに下をすらないよう斜めに出てください」と、お願いされる。112mmの最低地上高はひときわ低い。出入り口は坂道になっている。出る場合は下りである。慎重に路面との段差をクリアし、走り出して筆者が驚いたのは、その乗り心地の硬さだった。九段近辺の路面はかくも凸凹なのか。いやはや硬い。その硬さに3m走ってたまげる。
現行GR スープラはふたり乗りのみの設定。
タイヤ・サイズは前255/35ZR19、後ろ275/35ZR19と、ミドル級スポーツカーとしては最大限にでかくて太くて薄い。薄いほど、接地幅は広がるからステアリングのレスポンスは高まる。同時に路面の影響を受けやすくなる。銘柄はミシュラン社製「パイロット・スーパースポーツ」で、ランフラットではないけれど、BMW承認タイヤを示す☆のマークがついている。
スープラというブランドの特別さ
最初に感じた乗り心地の硬さは、都内で走っているあいだは少々気になった。東京はるか郊外のわが家へと帰る途中の高速でも。ところが、翌早朝、ふたたび乗り始めたときには、さほど硬いとは思わなかった。げに不思議なことである。ひと晩のあいだに筆者の体のなかで、A90型GR スープラRZとはこういうものだ、という精神的な受容、もしくは生物的変化が起きたらしい。
トップグレードの「RZ」と中間グレード「SZ-R」のタイヤは、ミシュラン社製の「パイロット スーパー スポーツ」。
GRスープラRZは乗り心地が硬い。たとえていえば、可変ダンピング・システム「PASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム)」のないポルシェ「911」にも似ている硬さである。GR スープラRZそれ自体には可変ダンピング・システムが装着されているのに、ビシッとした硬さがある。
バイエルン謹製、ただしコンピューターのプログラムはGR独自とされる2997㏄直列6気筒エンジンは、スターター・ボタンを押した途端に一声、グオッと爆裂音を発して、スポーツカーであることを主張する。
RZは、選択中のドライブモードや路面状況に応じて4輪のショックアブソーバー減衰力を最適に制御するAVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンション・システム)を採用。
搭載するエンジンは2997cc直列6気筒DOHCターボ(340ps/5000rpm、500Nm/1600〜4500rpm)。
走行モードは「スタンダード」「スポーツ」のほか、任意でダンパーやステアリングなどの特性を変更出来る「カスタマイズ」の3種類。
撮影の都合で、首都高速辰巳パーキングにまずは出向く。夜明け前のそこに偶然、走り屋仕様の真っ赤な先代A80型スープラ(1993〜2002年)が駐まっていて、スープラというブランドの特別さをあらためて思う。17年の空白を埋めて、BMWとの共同開発によって実現したGRスープラ復活の影には、さまざまな思惑、感慨、葛藤が交錯しているに違いない。
動的性能はものすごく高レベル
辰巳パーキングから箱根に向かう。ボア×ストローク=82.0×94.6mm のロング・ストローク型で、ターボチャージャーを装備するこのエンジン、姉妹車のBMW「Z4 M40i」とスペックはおなじだ。最高出力340psを5000rpmで、最大トルク500Nm を1600〜4500rpmで生み出す。まことに爽快なエンジンである。
静止状態から100km/hまでに要する時間は4.3秒。
ZFの8速オートマチックは、燃費を稼ぐためにロックアップを頻繁におこなっているためか、それともスポーツカーとしての演出なのか、シフトアップの際、低速時にほんのちょっぴりギクシャクする。
340ps、500Nmの大パワー、大トルクをマニュアルで操ろうとしたら、この程度のギクシャクでは済まない。駆動系がタイトだとなおさらだ。そう考えると、筆者はこれを“スポーツカーっぽい”と、肯定的に受け止めた。
トランスミッションは8速スポーツシーケンシャルシフトマチックのみ。マニュアル・トランスミッションはない。
ステアリング・ホイールはパドルシフト付き。
高速道路から山道にいたると、スープラは6気筒エンジンの滑らかな回転のごとくに滑らかに走ってみせる。舵角の大きな低速コーナーでは、ステアリングを切ってから曲がる感がある。リア・アクスルの直前にドライバーが座る古典的なFRスポーツカーならではの感覚だ。中高速以上のコーナーになると、人馬一体感が高まる。全長4380mm、全幅1865mmという、もともともコンパクトなボディがいっそうコンパクトに感じられる。
これまでの伝統を断ち切り、2+2からあえて純然たる2シーターを選択、86より100mm短い2470mmというショート・ホイールベースを実現。くわえて、BMWを説得して先代Z4から一挙に100mmも広げたというワイド・トレッド。ホイールベース÷トレッドの比率、50:50の前後重量配分、低重心にもこだわったとされる動的性能は、ものすごくレベルが高い。
RZが搭載する「アクティブディファレンシャル」は、コーナー進入時、回頭性と安定性を高バランスさせたロック率を選択する。アクセルを踏み込んでコーナーを脱出する際はロック率を高め、最大限のトラクション性能を発揮するという。
スポーティなシートは、腰を中心に身体を保持する機能を追求したという。サイドサポート幅の調整機能と電動ランバーサポート付き。
メーターはTFT液晶式。
ドライビング・モードをスポーツにすると、排気音がいや増し、雷鳴を轟かせる。コーナー手前で減速すると、自動的にブリッピングを入れてダウンシフトする。ブレーキもすばらしい。
現代の自動車で味わえる最高レベルの楽しさが、このスープラには詰まっている。
スープラの存在意義とは?
だけど、スープラがいいのは当たり前である。だって、中身がBMWなのだから。と、だれもが思うであろうそのことに、あるいは、だれも思ってないかもしれないけれど、私自身はこだわってしまうと白状しなければならない。それのどこがいけないのか? 自動車メーカーとして、どうなの? という話である。プラットフォームを決めてから以降は、お互い別々に開発したということだけれど、パワートレイン、シャシーがおなじであるとすれば、チューニングでできることはおのずと限られてくる。トヨタは具体的になにをなしたのか? デザインだけではないか。
BMWで見慣れたスウィッチ類がならぶインテリア。
センターコンソールのスウィッチ類も、BMWのクルマと共通デザイン。
そのデザインは? 2014年早々のデトロイトで発表されたコンセプト・カー「FT-1」の量産バージョンといえるスープラは、かつてザガートが得意としたダブル・バブル・ルーフを取り入れるなど、自動車デザインの古典を生かしつつ、モダナイズしたものだとはいえる。古くて新しくて、ロマンチックな雰囲気もある。先代A80型スープラの面影もある。夜の東京で、あるいは夜明け前の辰巳パーキングで、はたまた箱根の山中で眺めるスープラは、異形の存在として燦然たる光を放っていたように筆者は思う。
そう。A90は異物なのだ。おそらくトヨタのエンジニアにとっても。なぜわれわれにスポーツカーをやらせないのか、という不満が彼らのあいだには渦巻いている、と、筆者は想像する。自動車メーカーの象徴であるスポーツカーにかかわれないのであれば、エンジニアとしてトヨタに勤めている意味がないではないか。
さりとて、スポーツカーは実用には向かないというその性質上、販売台数が限られている。自社で開発・生産して利益を出すのはむずかしい。であるなら、他社と共同開発して、他社に生産を委託しましょう、というのはビジネスとしてまったく正しい。共同開発の相手がBMWで、生産の委託先が Z4とおなじ、オーストリアのマグナ・シュタイヤーとなれば、これ以上ない話である。
A90型GRスープラは、いわば世界で闘うために、日本の選手と日本国籍を持たない選手とで混成したラグビー日本代表のようなものである。あるいは、今次の東京オリンピック・パラリンピック2020で活躍が期待される、外国をルーツとする日本のトップ・アスリートたちにも擬せられる。そう考えると、GRスープラは、生まれてきたことだけでも祝福されるべき、ニッポンの星だ。
「トヨタは自動車メーカーからモビリティカンパニーへとモデルチェンジする」
豊田章男社長はそう宣言している。そのなかにはアップルなどのように、開発に専念して工場を持たないという選択も含まれているということだろう。
2020年はGR スープラで国内のスーパーGT選手権に参戦するだけでなく、FIAのGT4選手権用のレース仕様も発売する。GRスープラのプロジェクトはハードウェアを売り出して終わりなのではなくて、そのハードウェアをつかっていかに新たなソフトウェアを生み出していくかという、TOYOTA GAZOO Racingの挑戦第1弾なのだ。
車両価格は702万7778円。BMW Z4 M40iは851万円。スープラがクーペ・ボディで、Z4はオープン・ボディであることを考えても、スープラのほうがお値打ちだろう。実際、スープラのホームページには1月6日時点での工場出荷時期の目処は2020年3月以降とある。供給台数が少ないとはいえ、大人気。自動車メーカー本来の姿、とかにこだわっている時代ではない。
あ、ズレているのは筆者だけですね。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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January 09, 2020 at 07:00PM
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